前編ではカールとPAJの関わりについてお伝えしてきました。後編ではPAJ創世記をつくってきたはやしさんとKAT、カールの本のイラストを担当したもろさんに、カールとの思い出を書いてもらいました。

カールとの思い出

【はやしさん、林壽夫】

「カールの書いた「Cowstails and Cobras」という本があります。その1977年版 p.56に当時の「ジップライン」について書かれています。

地面で2組のペアが向かい合い、それぞれ一本のロープを持って7〜8m離れて立つ。その真ん中をチャレンジャーが通り過ぎるのを力いっぱい張って止めるのだそうです。その後、さすがにロープでは痛いということで、毛布に変わったそうです。

Cowstails and Cobras

でもこのブレーキで止めるという方法の素晴らしさは、そこに信頼感が生まれるというところだそうです。また、この頃のジップラインでもハーネスなどは使わずに大きなプーリーにぶら下げてある2つの輪に手を通してつかむだけでした。ついでに言うと、「むささびスイング」もカールの発明だそうです。

こんなクレージーな人がいたからプロジェクトアドベンチャーができたんだなと思います。いまの時代では無理かな?

念のため言っておきますが、クレージーはアメリカでは人を評価する時の最上級の言葉だと私は思っています」

カールのサイン入り:Toshio: Looking foward to our next FUNN! – Karl

【Katman, 難波克己さん】

「自分にとってのカールはOBSノースカロライナでの大先輩でもあり、本当に特別な存在です。彼こそまさにOut of Box Thinkerだと思う。そうでなければ現在のチャレンジコース(ロープスコース)を造るアイデアが生まれていないから。

彼のアイデアは、いま現在のアドベンチャーコースの原点と言えます。言うなればアップルのスティーブ・ジョブズの存在と言えば分かりやすと思います。

彼は190センチ以上の背の高さだからきっと彼の頭の辺りはいつも違う空気が流れてたに違いない!(笑)。イノベイティブかつクリエイティブ、しかもカリスマ性を持ち、彼が話し出すと皆んな聞き入る、説得力とストーリー性が抜群。比類なきボキャブラリーの持ち主です。

彼のカリスマ性を物語る一つのストーリーは、ある日講演を依頼されて、それが宗教団体の大会だったこと。もちろん彼は宗教の指導者ではないのですが、彼の話には人を惹きつける力があるので、どこかの教祖と間違えられての依頼でした。

アメリカで行われたACCT年次大会にて

彼の典型的な姿で思い出すのが、数十人の参加者が円になってカールはビーチボールを手に持ってるだけなのに、あるストーリーに引き込まれているシーンです。アイスブレーキングのアクティビティ以前の、話から引き込まれていく彼の魅力でした。

彼の話がワクワク、ドキドキしていて、まだ何も体験していない前からすでにカールの世界にいる安心感を覚えるからだと思います。

アメリカのPAのいまでは引退している元祖のトレーナー達はそれぞれユニークで人間的な魅力を持つ人たちです。その中でのカールの存在は「遊びの天才」そして「リスクとセーフティの境目を人の成長に結びつけていく種をまく人」です。

まさに、彼の言葉のギフトは “Have FUNN” ですね。さて、このFUNNの意味を知っている人は何人いらっしゃるでしょうか?

【もろさん、諸澄敏之さん】

もろさんはPAJ関連の本やロープスコースのエレメントイラストなどを描いてくださったり、カールの人気シリーズ本「FUNN STUFF」の表紙を描いた方です。

「初めてカールさんと接触したのは1990年。個人的な興味関心から、ハミルトンのPAの見学に伺いたいと申し出た手紙が親交のきっかけです。当時、青少年施設の職員だった私は、文献を頼りにウォールやロープスコースなどを設営し、これでいいのかな的な感じの、かなり怪しいイニシアティブ研修会を開催していたこともあり、本物を見てみたいと思ったからです。ほどなくして返事が届きましたが、遠方は極東の、見ず知らずの日本人に親切丁寧な返信をありがとうございました。

 依頼文に同封したイニシアティブ研修会の資料は、13日の金曜日のジェイソンが電ノコでウォールを切り裂いているというふざけ半分の表紙でしたが、カールさんは各イニシアティブのイラストを「日本語は読めないけど楽しい雰囲気がよくわかる」と随分と気に入ってくれ、しばらくしてカールさんの出版物やHigh5アドベンチャーセンターのTシャツ、中国で設営するハイエレメントの資料など、イラストレーターとしての仕事を頼まれるようになりました。

「FUNN STUFF」や 「A Small Book About Large Group Games」 が代表作になりますが、本の完成までの工程は、とても楽しくやりがいのあるものでした。

最初のころは郵便でのやりとりでしたが、やがてファクスや電子メールを介してになり、深夜に描きあげたラフスケッチを送ると、翌朝には「もう少し人数を多くして」などの注文が入っていて、時差ってすごいな、地球って丸いんだなと実感させられました。

私は英語が得意ではないので、平易な言葉で単刀直入な業務連絡をしてくれた方がありがたかったのですが、カールさんはいつも誉め言葉を忘れず、加えてユーモアあふれる遠回しの表現をしてきました。

最初は多少困惑しましたが、私も辞書を片手に応酬することにしました。私が送った資料が見当たらないというときは、「お母さんから、机の周りを片付けなさいって言われなかったのか」と責めました。すると、「確かに言われたけど、クリエイティブな才能を発揮するためには、どうのこうの…」といろいろと言い訳を並べて返信がきました。またあるときは「これでオッケーなら、釣りに行きたいのだけど」とイラストを添付すると、”Perfect. You can go fishing. “と端的な返事のあとは釣り談義でした。

仕事の推薦状をいただいたり、クリスマスカードや旅行先の絵葉書など仕事以外の文通も多くありましたので、カールさんとは旧知の仲と言えるかもしれません。

しかし、直接面談したのは一度だけ、ツーショットの写真はたったの一枚しかない、不思議な関係です。

私は、いろいろな刊行物でお世話になったPAJにとても感謝していますが、それと同様に、不思議な師匠カール・ロンキ氏のおかげで、充実した半生を送ることができたと、とても感謝しています」

(筆者がカールの訃報を諸澄さんにお知らせした時の返信に描かれていたカールのイラスト)

「今日は何をしようか?」

「今日は何をしようか?(What are we going to do today?)」ーこれはプロジェクトアドベンチャー(アメリカ)創成期にスタッフたちが毎朝コーヒーを飲みながら言っていた言葉だと、ジム・ショーエル(PA, Inc .創設者のひとり)が教えてくれました。PAJ20周年記念シンポジウムのタイトルでもこの言葉を使っています。

カールやジムたちは毎朝、どんなことをしたら面白いかを考えてプロジェクトアドベンチャーをつくっていったのです。カールたちが生み出してくれたものを生かして、日本でも「今日は何をしようか?」を大切にしていきたいと思います。ご冥福を心よりお祈り致します。

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