インタビューvol.17 難波克己さん 「アドベンチャースピリットを持ち続ける」

株式会社プロジェクトアドベンチャージャパン(PAJ)取締役のKat(キャット)こと難波克己さん。1996年にPAJに参画し、以来PAを始めとするアドベンチャー教育の普及のために全国を飛び回っています。現在は玉川大学TAPセンター(注1)長としてアドベンチャー教育を牽引しているKATにアドベンチャーについて伺いました。

体験学習との出会い

ーー体験学習との出会いは?

「体験学習」というけれど、僕たちはみんな、子どもの頃からずっと体験学習しているんです。だから大きく言えば、毎日が体験学習なんです。でも、学び、教育の手法としての体験学習という意味ではYMCA(注2)で出会いました。

1970年代に高校を卒業して、アメリカに留学する前にYMCAに入ってボランティアリーダーになり、キャンプに出会いました。当時、体験学習とは言っていなかったけれど、YMCAが「体験学習」との出会いといえば出会いになります。

若者が集まって世の中の不公平さや豊かさについて考え、何かできないかと始めたのがYMCAです。YMCAは人が人として生きるときに、人とつながって何かをやろうというムーブメントを起こした、原点の1つであると思います。

YMCAでは、地域活動、社会活動、青少年育成活動をやっていて、僕はキャンプやサッカー、サイクリングクラブなどをやっていました。毎週末サイクリングで集まって、夏になったら遠征をしていました。YMCAでの活動はそれ自体が体験学習でした。体験とは生きるということを通してやること。教育学的な観点で「体験学習」なんて言っていなくても、生きているということが体験そのものなんです。

留学アドベンチャー

ーーYMCAのあとは留学したんですよね。

学生ビザを取るお金がないから、まず観光旅行で行って、向こうでビザを取る覚悟で行ったんです。YMCAの国際キャンプで出会った人たちと文通していてそのエアメールの束を持ってまず、ハワイに行きました。入国管理局ではエアメールを見せて、文通相手の住むいろいろな街を周るから片道切符で来たけれど、帰りは切符を買いますと言ってね(笑)

ーー博打ですね。入国管理局で追い返されるかもしれないんでしょう?

僕の後ろにいた子は帰されていましたね。流暢に英語を喋ると不法就労しに来たと思われるからあまり喋らないようにしました。本当に大きな賭けでした!旅行者としてアメリカに入国して、働きながら大学に行くと信じて行ったんです。アドベンチャーなんですよ!人生アドベンチャー!すごい体験だった!

ーー怖かったり不安はなかったですか?

ナイナイナイナイ!出世するためには皿洗いからするしかないと思っていました。失敗なんて全然考えていなかったし、不安は全くなくて、行きたくてしょうがなかった。

ーー大学では何を専攻しましたか?

専攻(メジャー)はレクリエーションセラピー、副専攻(マイナー)はアウトドアエデュケーション。

当時、「アウトドアエデュケーション」という学問はなくて、「レクレーションマネジメント」の中にありました。国立公園や自然環境、保全系の中に、「アウトドアエデュケーション」が曖昧にあった時代です。

大学時代はYMCAがやっているキャンプ場でキャンプカウンセラーをしていました。大きなオハイオ川の近くの自然豊かな場所でした。

キャンプが終わって8月に大学に戻るという時期になったら、入れ替わりで入ってきた人たちがいました。サンダル、短パン、ロングヘア、ザックにヒゲという出で立ちのアウトドア人間がやって来たんです。声をかけたら、ルイビルの教育委員会がやっている「プロジェクトID(Inovative Diversion)」というプログラムのインストラクターたちで、アウトワードバウンド(OB)のモデルを使った非行少年のプログラムと家庭裁判所のプログラムが始まるというんです。

野外活動をしながら、自然の中で国語、算数、理科、社会を全部やる。彼らの話をきいて、「これしかない!大学に戻っている場合じゃない!」と思いました。インストラクターになりたいと言ったら、ボスに紹介してくれました。その後、大学に掛け合って、プロジェクトIDでの時間をできる範囲内で実習単位として認めてもらったんです。

やりたいことは切り開いていくしかない。皿洗いしながら、自分を高め、英語を高め、サッカーの人脈を広げたんです。それをわざわざ「体験学習」なんて言う必要ないんです。ライフ(人生)そのものですよ、それはまさにライフエデュケーションでしょう。

だから僕のアメリカからの人生のキーワードは、スポーツ、野外、子ども、そして変容モデル。問題を抱えた子と関わり、社会にあるさまざまなギャップの中でどうやって公教育を底上げしていくのかということを考えてきました。

ーーアメリカでいろいろな人と出会ったことは、日本での仕事に生かされていますか?

本当の意味でのダイバーシティ(多様性)を体験してきましたね。僕たちも「日本人」という言葉でひとくくりにならない。ひと言で、日本人は、アメリカ人は、カナダ人は、とは言えないでしょう?だって違うんだもの。日本人より通じ合えるアメリカ人もいっぱいいるし、アメリカ人より日本人の方が近しい場合もあります。とても面白い時代になったと思いますね。だんだん断言できなくなってきたなと感じます。

ーー断言できない?

ユニバーサルになってきました。コズミックになってきたっていうか…。今の世の中、断言できないことがたくさんあるからこそ、人に教えてはいけないんじゃないかと思っています。「これはこうだよね」とか、「これはこうだから覚えておくんだよ」とは言えない世の中になってきています。まさにファシリテーションが必要な時代に入ったんじゃないかと思います。「自分の経験はこうなんだけど、君の目を通し見たらどうなんだろうね」ということをきいていかなければいけない時代なんじゃないかな。

体験学習のこれから

ーーそんな時代の中、学校はどこに向かうんでしょう?

学校の中に入っていくとアドベンチャーはまだまだ未知の世界で未開発です。アドベンチャーの精神、PAのスピリット、フルバリューコントラクト、チャレンジバイチョイス、あるいは見えないものの中にチャレンジしていくことを今の日本の学校で勉強の中に生かしていくことはまだこれからの課題です。

僕が皿洗いから始めて自分の知らない国や文化の中で自分と言うものを認識して確立していったのはまさにアドベンチャーでした。それと同じように、未知のものを知り、今の自分より明日、明日よりも明後日と、より大きくなっていく過程には、日々のアドベンチャーがあることを学校に限らず、もっと多くの人に知ってもらいたいですね。

PAJが設立してもうすぐ25年経ちます。次の25年、その次の25年を踏まえて、「アドベンチャー教育はどこに行くの?何ができるの?」と考えると、日常の中にどうアドベンチャーがきちっと入っていくかだと思います。昔からPA, Inc. (PAアメリカ本部)が「Bring the Adventure Home(アドベンチャーを身近に)」と言っていてまさにそれだと思います。今はまだアドベンチャーというキーホルダーを持ってはいても、それが使われてない感じがします。学校におけるPAはまだまだこれからです。

でもね、アドベンチャーはどこにでもあります。学校で学ぶという形がもう古くなってきています。今の学校では学び方を学べていないんです。学び方を学ぶというのは、どう生きるかということだから。生きながら学ぶんだから、「live and learn」が本当なんです。ライフスキルは生きながら学べます。学習力とライフスキルは同時にあるものだから。

ーーこれから先にはどんなもがあったらいいと思いますか?

大きく言ったら、人として豊かに生きること。人として自分らしく生きられること。教育は人生。人生ってそういうもんじゃない?

豊かさは自分が決めるもの。ある人はお金に、ある人は物ではないスピリチュアルなものに価値を置きます。そこにはその人の価値観が出ます。

僕にとって体験学習はもっと生きているということと密着しています。日々が体験学習。日々成長する機会があるということの可能性をもっと知って欲しいです。

体験学習というのは可能性教育ということだと思うし、人生をどう生きるかということを考えるのがアドベンチャーです。そしてそこには、「いま生きている」ということへの感謝も込めたい。生きているというのは、本当にすごいこと。「いまここにいること」の大切さがある。「Here and Now」というのは、重みがあって、価値があります。一人ひとりが「いまここにいること」に喜びを見つけていけたら素晴らしい。ある人があるミュージシャンを好きで、音楽を聴いていれば元気になるのもいいし、海外旅行をして人に会うのが好きな人、料理するのが喜びの人もいるかもしれない。宇宙の何かのバランスでこうして生かされていて、こんなにも素晴らしいということ自体にどこかで気づくことによって人生が変わると思います。

僕にとってはやっぱり遠征、旅をして人に会うことが非常に大事。ワールドスクールをつくるのもまだ諦めていない!中1から高3まで子どもたちと、少人数で世界に学びに行く。2年ごとに国を変えて、6年間で4ヶ国語をマスターして、日本と世界のことを学びながら移動していきたい。

ーーまだまだやりたいことありますね。

世界中、空いてる家はいっぱいあるから、そこをグループホームにしたらいい。きっとできるよ!それはまさに「人生学校」。ITを駆使してきっとできちゃうよ!

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注1:TAPセンター(玉川アドベンチャープログラムの略)http://tap.tamagawa.ac.jp/

注2:YMCA(Young Men’s Christian Association、キリスト教青年会の略)
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(インタビュー:寺中有希 2018.10.9)

プロフィール

難波 克己 (なんば かつみ、kat、又はkatman)


20代前半に日本を飛び出し、単身アメリカに渡り大学教育を受ける。1ドル¥360時代に一か八かのチャレンジで自費留学、皿洗いから生活を始め、キャンプカウンセラー、サッカー選手、コーチ、アウトドア教育インストラクターと変遷しながらも学士、修士課程を終えて日本に帰国。1970年代から90年代のアメリカ全州を巡り、人との巡り合い、特にOBS、NOLSとPAに出会いLife Philosophyがマッチング!人生これだと思いつづけて今もアドベンチャーを続けている。地球時間の65歳を迎えて、これからの時間をどう生きるか?目指せ旅する絵本作家、Peace Maker、Life Designer。